会沢翼「選手兼コーチ」、大瀬良「13年連続勝利」、菊池涼介「折れたバットの決勝打」——カープの「裏方化するベテラン」が映す球団の設計図

会沢翼「選手兼コーチ」、大瀬良「13年連続勝利」、菊池涼介「折れたバットの決勝打」——カープの「裏方化するベテラン」が映す球団の設計図 一軍出場のないまま、契約が更新される。10年ぶりにリリーフのマウンドに上がり、勝ち星をつける。負ければ

By Rei

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会沢翼「選手兼コーチ」、大瀬良「13年連続勝利」、菊池涼介「折れたバットの決勝打」——カープの「裏方化するベテラン」が映す球団の設計図

一軍出場のないまま、契約が更新される。10年ぶりにリリーフのマウンドに上がり、勝ち星をつける。負ければ最下位に転落する試合で、バットが折れながら決勝打を放つ——。

2024年の広島東洋カープには、ベテランたちが「主役」ではなく「仕組みの一部」として機能する場面が繰り返し現れた。会沢翼、大瀬良大地、菊池涼介。三者三様の立ち位置でありながら、その役割を貫く共通の構造がある。個人の美談として消費するには、少しもったいない話だと思う。

これは「誰を楽にするか」を起点に設計された、球団の世代交代の仕組みについての記事である。

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一軍出場ゼロの選手が、なぜ残るのか——会沢翼の「選手兼コーチ」

会沢翼、39歳。プロ21年目。2024年シーズン、一軍での出場機会はなかった。数字だけを見れば、戦力外通告の対象になってもおかしくない。それでも球団は彼に「選手兼コーチ」という肩書きを与え、来季の現役続行を決めた。

この判断の背景には、カープの捕手事情がある。正捕手の坂倉将吾が打撃面で中軸を担う一方、二番手以降の捕手——石原貴規、持丸泰輝といった若手は、まだリード面や投手との関係構築において発展途上にある。捕手という特殊なポジションは、技術だけでなく「投手ごとの配球の文脈」「試合の流れの中での間の取り方」といった、数値化しにくい経験知が求められる。会沢が21年間で蓄積してきたそれは、コーチングマニュアルには載らない種類のものだ。

選手兼コーチという形態は、NPBにおいて珍しくはない。しかし注目すべきは、会沢がこの役割を「引退の猶予」としてではなく、「現場で手を動かしながら伝える装置」として引き受けている点にある。ブルペンで若手捕手と並んで座り、投手の球を受けながら「今のはこう構えたほうがいい」と伝える。試合中にベンチから見える景色と、マスク越しに見える景色は違う。会沢は後者の視点を、現役であることによって保ち続ける。

球団にとって、外部からコーチを招聘するコストと比較しても、現場の空気を共有しながら指導できる選手兼コーチの存在は合理的だ。年俸は推定1500万円前後——専任コーチの人件費と大きく変わらない水準で、「プレーヤーとしての説得力」という付加価値がつく。仕組みとして、少し美しいと思う。

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先発から救援へ——大瀬良大地「13年連続勝利」の構造的意味

大瀬良大地が2024年シーズンに記録した「13年連続勝利」は、数字そのものの華やかさとは裏腹に、地味な文脈の中で達成された。

2018年に最多勝を獲得し、カープの黄金期を支えたエース右腕。しかし近年は右肘の故障に苦しみ、2024年は先発ローテーションの軸を森下暢仁、床田寛樹、九里亜蓮といった投手たちに譲る形となった。シーズン中盤、大瀬良は10年ぶりに救援として登板する。先発投手がリリーフに回ること自体、プライドとの折り合いが問われる選択だ。

だが大瀬良は、その登板で勝利投手となり、佐々岡真司が持つ球団記録に並ぶ13年連続勝利を達成した。「どんな形でもチームの勝ちに貢献できればいい」——大瀬良のこの言葉を、単なる謙虚さとして読むのはもったいない。ここには、自分の役割が変わることを受け入れた投手の、静かな覚悟が滲んでいる。

この「先発からリリーフへ」という配置転換は、球団の投手運用の設計思想を映している。カープは2024年、森下・床田を軸とした先発ローテーションを固めつつ、ブルペンの層を厚くする方向に舵を切った。大瀬良の救援起用は、その文脈の中にある。エースだった投手が、チームの構造上の必要に応じてポジションを変える。個人の物語としては切ないが、仕組みとしては理にかなっている。

13年連続勝利という記録は、裏を返せば「13年間、一軍の戦力であり続けた」ということだ。先発でもリリーフでも、その年のチームが必要とする場所に立ち続けた結果としての継続。記録の美しさは、柔軟さの中にある。

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折れたバットと、最下位転落の瀬戸際——菊池涼介が体現する「役割の変化」

2024年シーズン終盤、負ければ最下位に転落する一戦。菊池涼介は決勝の2点適時打を放った。バットは折れていた。

「バットが折れていた。でも、気持ちで持っていった」と菊池は振り返った。新井貴浩監督も「気持ちで食らいついた良いヒット」と称えた。この場面を「ベテランの意地」として描くことは容易だが、少し引いて見ると、別の構図が浮かぶ。

菊池涼介は、かつてゴールデングラブ賞を10度受賞した守備の名手であり、打撃でも上位を打つ攻撃的な二塁手だった。しかし2024年、打撃成績は全盛期と比較すれば明らかに下降線にある。それでも菊池がスタメンに名を連ねる試合が多いのは、守備力だけでなく、「チームの中で何が求められているかを察知し、それに応える」能力が衰えていないからだ。

折れたバットの決勝打は、技術ではなく判断と執念の産物だった。追い込まれた状況で、何を捨てて何を残すか。その取捨選択ができること自体が、若手——末包昇大、田村俊介といった次世代の野手たち——にとっての教材になる。菊池は打席の中で、言葉にならない授業をしている。

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三者に共通する構造——「裏方化するベテラン」という設計

会沢、大瀬良、菊池。三人の役割は異なるが、共通する構造がある。

それは、「主役から裏方へ」という移行が、個人の意思だけでなく球団の設計によって支えられているという点だ。

広島東洋カープは、12球団で唯一の「親会社を持たない市民球団」的な経営構造を持つ。大型補強に頼れない以上、自前で選手を育て、世代交代を滑らかに進めることが生命線になる。FA流出のリスクを常に抱えながら、それでもチームの競争力を維持するには、「育てる仕組み」そのものをチーム内に埋め込む必要がある。

ベテランの裏方化は、その仕組みの一部だ。外部から指導者を招くのではなく、チームの文化と文脈を共有した選手が、現役のまま次の世代に経験を手渡す。会沢が捕手の技術を、大瀬良が投手としての柔軟さを、菊池が勝負所での判断を——それぞれが、自分の専門領域で「伝達装置」として機能している。

この設計が機能するためには、ベテラン側の覚悟だけでなく、球団側の「役割の再定義」が不可欠だ。一軍出場がなくても契約を更新する判断、エースをリリーフに回す決断、打撃成績が下がってもスタメンで使い続ける采配——これらはすべて、短期的な成績最大化とは異なる論理で動いている。「今季の勝率」ではなく「3年後のチーム力」を見据えた投資と言える。

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この設計図は、誰を楽にするのか

仕組みの話をするとき、いつも考えることがある。「これは誰を楽にするか」。

カープの「裏方化するベテラン」という設計は、直接的には若手選手を楽にする。経験知へのアクセスが、日常の中に埋め込まれるからだ。コーチ室のドアをノックする必要はない。ブルペンで隣に座っている先輩が、試合の中で答えを見せてくれる。

しかし同時に、この仕組みはベテラン自身をも楽にしているのではないか。「衰え」を個人の問題として抱え込むのではなく、「役割の変化」としてチームの構造に位置づけ直すこと。それは、選手としての晩年を孤独にしない仕組みでもある。

2025年シーズン、会沢はマスク越しに何を伝えるのか。大瀬良はどのマウンドに立つのか。菊池はどの打席で、何を見せるのか。

三人の専門はまったく違う。しかし、彼らが向いている方向は同じだ——自分の次に立つ誰かのために、今の自分をどう使うか。個人の頑張りではなく、仕組みとして回っていること自体に、少し胸が熱くなる。

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