廃材の火が15ha焼き、船の解体が街を煙らせる——「壊すこと」の仕組みが不在な地域で起きていること

建てるための許可は厳しい。壊すための仕組みは、ほとんどない。 広島県福山市の山林で、15ヘクタール以上が焼けた。消防車46台が出動し、ヘリコプターも投入されたが、鎮火の見通しはすぐには立たなかった。火元は——廃材を燃やしていた現場だった。

By Rei

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建てるための許可は厳しい。壊すための仕組みは、ほとんどない。

広島県福山市の山林で、15ヘクタール以上が焼けた。消防車46台が出動し、ヘリコプターも投入されたが、鎮火の見通しはすぐには立たなかった。火元は——廃材を燃やしていた現場だった。

ほぼ同じ時期、呉市音戸町の船舶解体現場でも火災が起きている。廃船と周囲に積まれた廃材が燃え、19隻の船が係留を離れて漂流する事態にまで発展した。消火活動は長時間に及び、煙は住宅地にまで流れた。

二つの火災に直接のつながりはない。しかし、並べてみると同じ構造が浮かぶ。どちらも「壊したあと」に出るものの行き場がなかったという点で、根は一つだ。

建物を建てるには建築確認が要る。船を造るには検査がある。「つくる」側には許認可と手順と責任の所在が明確に設計されている。では「壊す」側はどうか。解体届出、廃棄物処理法、大気汚染防止法——制度は存在する。存在するが、現場まで届いていない。届いていないことを、誰も日常的には気にしない。火が出るまでは。

廃材はどこへ行くのか——福山・山林火災の背景

福山市の山林火災について、現時点で報じられている火元は「廃材の焼却」だ。誰がどのような経緯で廃材を燃やしていたのか、詳細はまだ捜査中とされる。ただ、背景にある構造は推測ではなく、数字で読める。

環境省の「産業廃棄物の排出及び処理状況」によれば、建設系廃棄物は全産業廃棄物の約2割を占める。木くず・がれき類を含む建設廃材の処理費用は年々上昇しており、中間処理施設への搬入費は1トンあたり1万〜3万円が相場とされる。小規模な解体現場や個人事業者にとって、この費用は決して軽くない。

処理費を抑えたい。手続きが煩雑で後回しにしたい。近くに受け入れ先がない——こうした事情が重なったとき、「とりあえず燃やす」という選択肢が消えない。野焼きは廃棄物処理法で原則禁止されているが、農業や林業に伴う焼却など例外規定があり、現場での線引きは曖昧になりやすい。結果として、違法か合法かのグレーゾーンに廃材が滞留する。

福山市がある備後地域は、古くから木材加工や造船関連の産業が根づいてきた土地でもある。産業があるところには廃材が出る。廃材が出るところには、それを受け止める仕組みが要る。その仕組みの容量が、産業の規模に追いついていない可能性がある。

船を「終わらせる」ことの重さ——呉市音戸町の現場から

呉市音戸町の火災は、船舶解体という特殊な現場で起きた。船の解体は建物の解体とは異なる難しさを持つ。鉄、FRP(繊維強化プラスチック)、木材、塗料、油脂類——一隻の中に複数の素材が入り組み、分別と処理にはそれぞれ異なるルートが必要になる。

特にFRP船の処理は長年の課題だ。日本舟艇工業会の推計では、国内に存在するFRP廃船は推定20万隻以上とされてきた。FRPはリサイクルが難しく、破砕してセメント原料にする方法が主流だが、処理費用は1隻あたり数十万円に上る。所有者が費用を負担できず、あるいは所有者不明のまま放置される船が各地の港に溜まっている。

音戸町の現場で火災後に19隻の漂流船が確認されたという事実は、解体現場の周辺にそれだけの船が密集していたことを意味する。係留ロープが焼け切れたのか、熱で劣化したのかは不明だが、漂流船は航路を塞ぎ、他の船舶や港湾施設への二次被害を生む。「壊す現場」の管理が不十分であることが、火災という一次被害を超えて地域全体のリスクに波及した構図だ。

呉市はかつて海軍工廠の街であり、造船と船の修繕で栄えた歴史を持つ。船をつくる技術は誇りとして語られるが、船を終わらせる技術と仕組みは、同じ重さでは語られてこなかった。

「壊す」を支える人がいない

ここで二つの火災に共通するもう一つの構造に触れたい。担い手の問題だ。

解体業、廃棄物処理業は、建設業の中でも新規参入が少ない分野とされる。国土交通省の建設業許可業者数の推移を見ると、解体工事業の許可業者数は2019年の業種新設以降じわじわと増えてはいるものの、実態としては既存の建設業者が追加取得したケースが多く、専業の新規参入は限定的だ。

現場は体力的にきつく、粉塵やアスベストなど健康リスクも伴う。利益率は高くない。社会的な認知度も低い。「つくる」仕事には設計やデザインという華やかな入口があるが、「壊す」仕事にはそれがない。結果として、既存の事業者が高齢化し、廃業していく速度に、新たな担い手の参入が追いつかない。

人がいなければ、仕組みは動かない。制度があっても、それを現場で実行する人がいなければ、廃材は行き場を失い、船は港に放置される。福山の山林も、音戸の海辺も、その空白が火になった。

制度はある。届いていないだけだ。

誤解のないように整理しておきたい。「壊す」ことに関する法制度が存在しないわけではない。

建設リサイクル法は一定規模以上の解体工事に届出と分別解体を義務づけている。廃棄物処理法はマニフェスト制度で廃棄物の流れを追跡する仕組みを持つ。船舶についても、放置艇対策として国土交通省が係留保管適正化法を運用し、自治体による撤去・処分の枠組みがある。

しかし、制度の網の目は粗い。届出義務の対象にならない小規模な解体、所有者が特定できない廃船、農林業との区別がつきにくい野焼き——制度の「外側」に落ちる案件が、地域の現場では少なくない。そして、制度の外側にいる人ほど、処理費用を負担する余裕がないという逆説がある。

規制を強化すればいいという単純な話ではない。規制だけを強めれば、費用を払えない人が不法投棄や違法焼却に流れるリスクがむしろ高まる。必要なのは、規制と支援をセットで設計すること——処理費用の補助、中間処理施設へのアクセス改善、小規模事業者向けの簡易な届出制度など、「壊す」行為を正規のルートに乗せるための仕組みづくりだ。

今後の注目点——誰がこの構造を動かすのか

福山の山林火災は、原因の特定と責任の追及がこれから進む。呉市音戸町の火災は、漂流船の回収と現場の安全確保が当面の課題になる。どちらも「事後処理」のフェーズに入る。

だが、本当に見るべきはその先だ。

自治体が廃材処理や廃船処理の実態調査に動くかどうか。処理費用の負担構造を見直す議論が始まるかどうか。解体業・廃棄物処理業の担い手確保に向けた具体策が出てくるかどうか。火が消えた後に、構造の話が残るかどうか。

「建てること」と「壊すこと」は本来、一つの循環の中にある。建てたものはいつか壊れる。造った船はいつか終わる。その終わり方を設計しないまま、始まりだけを許可してきた仕組みのツケが、15ヘクタールの焼け跡と、港を漂う19隻の船になって現れている。

壊すことに手順と敬意を与える仕組みを、誰がつくるのか。それは規制当局だけの仕事ではない。つくる人、使う人、終わらせる人——その全員が当事者になったとき、ようやく循環は閉じる。

火を消すのは消防の仕事だ。火が出ない仕組みをつくるのは、街に暮らす全員の仕事だと思う。

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