重機の遠隔操作、スクールドッグ、警察リクルーター——「人が足りない」広島が静かに発明している代替の仕組み
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人を増やすのではなく、人の「使い方」を変える
建設現場に人が来ない。学校の相談室は順番待ち。警察官の採用試験は定員割れ——。どれも聞き慣れた話だ。けれど広島では、この三つの現場がそれぞれ、少し変わった角度から同じ問いに答えようとしている。
重機の遠隔操作。学校に常駐する犬。警察官が自ら足を運ぶリクルーター制度。一見つながりのない三つの取り組みに共通するのは、「人を増やす」のではなく「いまいる人の役割を再定義する」という設計思想だ。人手不足を嘆く声は全国にあるが、広島が静かに組み立てているのは、嘆きの先にある仕組みの方である。
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1人で2現場を操る——重機遠隔操作が変えた「距離」の意味
広島県内の建設現場で、1人のオペレーターが約10km離れた2つの現場の重機を遠隔操作する実証が進んでいる。結果として実現した省人化率は約35〜40%。数字だけ見れば効率化の話に聞こえるが、現場で起きていることの本質は少し違う。
従来、重機のオペレーターは「その場にいること」が仕事の前提だった。操縦席に座り、土のにおいと振動を感じながらレバーを引く。その身体性こそが熟練の証でもあった。遠隔操作は、その前提を静かに書き換える。高精度カメラと振動センサーが現場の情報をリアルタイムで伝え、オペレーターはモニター越しに2現場を切り替えながら作業を進める。
ここで見落とせないのは、この仕組みが「誰でもできる仕事」を増やしたのではなく、「熟練者の手が届く範囲」を広げたという点だ。ベテランオペレーターの技術が、物理的な距離の制約から解放される。人を増やせないなら、1人の守備範囲を広げる——その発想が、建設業界の慢性的な人手不足に対する一つの回答になりつつある。
さらに、危険な法面(のりめん)作業や狭小地での施工において、人が現場に立ち入らずに済むという安全面の効果も大きい。省人化とは、人を減らすことではなく、人を危険から遠ざけることでもある。
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スクールドッグ——「先生でも親でもない存在」が埋める隙間
広島市内の学校で、犬が廊下を歩いている。「スクールドッグ」と呼ばれるこの取り組みは、訓練を受けた犬を学校に常駐させ、子どもたちの心のケアにつなげるプログラムだ。
スクールカウンセラーの配置拡充が全国的な課題となる中、広島が選んだのは「人を増やす」のとは別の道だった。犬は相談室のドアをノックする必要がない。廊下ですれ違うだけで、子どもは自然に手を伸ばす。ある教員はこう語った——「教室に入れない子が、犬がいる部屋には来るんです」。
この一言に、仕組みの核がある。スクールドッグは、カウンセラーの代わりではない。先生でも親でもない「第三の存在」として、子どもが言葉にできない感情の受け皿になっている。心理学の領域では、動物介在教育(Animal-Assisted Education)の効果として、ストレスホルモンであるコルチゾールの低下や、オキシトシンの分泌促進が報告されている。犬と触れ合う時間は、科学的にも「安心」を生む仕組みとして裏付けがある。
もう一つ見逃せないのは、教員への波及効果だ。犬を介して生徒と会話が生まれることで、教師が気づけなかった子どもの変化——表情の曇り、友人関係の揺れ——を拾いやすくなるという声がある。スクールドッグは、子どもと大人の間に「観察の余白」をつくる装置でもある。
人が足りないから犬を入れた、という単純な話ではない。人にしかできないケアの手前に、人ではない存在が立つことで、人の仕事がより深い層に届くようになる。そういう設計だ。
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64人の警察官がリクルーターになる——「採る側」と「伝える側」を兼ねる仕組み
広島県警が2024年度に本格導入したリクルーター制度では、現役の警察官64人が「リクルーター」として指定され、大学や地域のイベントに足を運び、受験者に直接声をかけている。
警察官の採用難は全国的な傾向だ。2023年度の警察官採用試験では、多くの県で競争倍率が過去最低を更新した。従来の対策は、採用広報の予算を増やす、試験日程を柔軟にする、といった「入口を広げる」方向が中心だった。広島県警が踏み込んだのは、その手前——「誰が伝えるか」の部分である。
人事課の担当者ではなく、現場で働く警察官自身が語る。交番勤務のリアル、捜査のやりがい、夜勤明けの朝のこと。採用パンフレットには載らない温度のある言葉が、受験者の志望動機を具体的なものに変える。ある若手リクルーターは「自分が警察官を続けている理由を、言葉にする機会になった」と話す。
ここに、この制度のもう一つの機能が見える。リクルーターとして外に向けて語る行為が、警察官自身の内省を促している。なぜこの仕事を選んだのか、何に価値を感じているのか——それを言語化するプロセスは、組織の内側に「意味の再確認」をもたらす。採用活動が、同時に組織開発として機能している。人を採るための仕組みが、いまいる人を育てる仕組みにもなっている。その入れ子構造が、この制度の設計として秀逸な点だ。
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三つの現場が指し示す、同じ方角
重機の遠隔操作は、熟練者の守備範囲を物理的に拡張した。スクールドッグは、人の手前に「人ではない存在」を置くことで、人の仕事の質を変えた。リクルーター制度は、「採る」と「育てる」を一つの行為に重ねた。
三つの取り組みは、業界も手法もまるで違う。けれど設計の根にある問いは同じだ——「いまいる人と資源で、届く範囲をどう広げるか」。
全国の自治体が人口減少と人手不足に直面する中で、「人を増やす」以外の選択肢をどれだけ持てるかが、地域の持続可能性を左右し始めている。広島のこれらの試みは、まだ実証段階のものも含まれる。遠隔操作の通信遅延、スクールドッグのアレルギー対応、リクルーター業務と本来業務の両立——課題は当然ある。
それでも、この三つの現場に共通する態度には、少し希望がある。足りないものを数えるのではなく、いまあるものの配置を変えてみる。その静かな発明が、誰かの現場を確かに楽にしている。
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JA
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