WordPressがAIに19%奪われ、GitのAIコードが10倍に——「コードを書く仕事」の値段が壊れる速度
Related Articles

「ホームページ制作、50万円です」——この見積もり、あと何年通用するだろうか。
WordPressがインターネットのシェアを19%失った。GitHubではAIが書いたコードの出荷量が前年比10倍。Linuxの生みの親リーナス・トーバルズは「これが新常態だ」と言い切った。
起きていることはシンプルだ。コードを書くコストが、地面に向かって落ちている。
これは大企業のエンジニアだけの話じゃない。地方の中小企業が「ホームページどうしよう」「業務システムどうしよう」と考えるとき、選択肢の値段が根本から変わるという話だ。
—
WordPressの19%シェア喪失——何が起きたのか
WordPressは長年、ウェブの43%を支えてきた巨人だ。「とりあえずWordPress」は中小企業のWeb制作における合言葉だった。
そのWordPressが、AIを活用した新興プラットフォームにシェアを19%奪われた。Wix AI、Framer、v0.devといったツールが、「テキストで指示を出すだけでサイトが出来上がる」世界を現実にしつつある。
これが何を意味するか。
従来、WordPressで企業サイトを外注すると、相場は30万〜150万円。テーマ選定、プラグイン設定、デザインカスタマイズ、レスポンシブ対応。ここに人件費がかかるから、この値段になる。
ところがAIツールを使えば、「こういう会社で、こういうサービスをやっていて、ターゲットはこういう人」と入力するだけで、それなりのサイトが数分で生成される。完成度は100点ではないが、70点のサイトが5万円以下で手に入る時代がもう来ている。
問いはこうだ。「70点で5万円」と「90点で100万円」、どちらを選ぶか?
多くの中小企業にとって、答えは明白だろう。そもそも「90点のサイトが必要な中小企業」がどれだけあるのか。名刺代わりのコーポレートサイト、採用ページ、サービス紹介。これらに100万円かける合理性は、急速に失われている。
—
GitHubのAIコード10倍——「人が書いたコード」が少数派になる日
GitHubのデータはさらに衝撃的だ。AIが生成したコードの出荷量が前年比10倍。GitHub Copilotの利用者は急増し、すでに多くのリポジトリでAIが書いたコードが人間のコードと混在している。
数字で考えてみる。
従来、業務システムの簡単なカスタマイズ——たとえば「見積書を自動生成する機能を追加してほしい」——を外注すると、20万〜50万円が相場だった。エンジニアの稼働が2〜5日、日当3万〜10万円という計算だ。
これがAIコード生成を使えばどうなるか。Claude、GPT-4、Geminiといったモデルに要件を伝えれば、動くコードが数分で出てくる。もちろんそのまま本番投入はできない。テストも修正も必要だ。だが、「ゼロから書く」工程が消える。これだけで工数は半分以下になる。
50万円の開発が10万円になる。20万円の改修が3万円になる。
これはプログラマーにとって脅威だが、中小企業にとってはチャンスだ。「予算がないからシステム化できなかった」という制約が外れる。
—
リーナス・トーバルズが「新常態」と言い切った意味
Linuxの創始者リーナス・トーバルズは、AIによるコード生成の急増を「新常態(ニューノーマル)」と表現した。
この発言の重みを理解するには、トーバルズがどういう人物かを知る必要がある。彼はLinuxカーネルという、世界中のサーバー、スマートフォン、クラウドインフラを支えるソフトウェアの品質管理者だ。コードの質に対して世界一厳しい人物と言っていい。
その彼が「AIが書いたコードが混ざるのは当たり前になる」と認めた。これは「AIのコードは使い物にならない」という議論に、事実上の終止符を打つ発言だ。
重要なのは、ここからの構造変化だ。
コードを書くコストが下がると、何が起きるか。
- 「作る」より「何を作るか」の価値が上がる。 コーディングが安くなれば、要件定義や業務設計ができる人材の価値が相対的に上がる。
- 「保守」の価値構造が変わる。 AIで安く作れるなら、壊れたら作り直せばいい。月額保守費5万円を払い続ける合理性が問われる。
- 「内製」のハードルが劇的に下がる。 社員がAIツールを使って自分で作る。外注しない。この選択肢が現実的になる。
地方の中小企業にとって、3番目が一番大きい。
これまで「うちにはエンジニアがいないから」と諦めていた業務改善が、事務のスタッフでもできるようになる可能性がある。AIに「毎月の請求書を自動で作るスプレッドシートのマクロを書いて」と頼めば、動くものが出てくる。完璧じゃなくても、今まで手作業で2時間かかっていたものが10分になるなら、それだけで月に20時間浮く。
—
arXivのAI論文制限——「AIが作ったもの」への信頼問題
一方で、AIコード・AIコンテンツの急増は別の問題も引き起こしている。
学術論文のプレプリントサーバーarXivが、AIが生成した不適切なコンテンツに対する制限を強化した。AIで大量生産された低品質な論文が投稿され、査読の負担が増大したためだ。
これはコードの世界でも同じことが起きる。AIが書いたコードは「動く」が、「正しい」とは限らない。セキュリティホールがあるかもしれない。エッジケースを考慮していないかもしれない。大量に生成されたコードの品質を誰が担保するのか。
ここに、中小企業が気をつけるべきポイントがある。
「AIで安くできるから」と飛びついて、品質チェックなしで本番運用するのは危険だ。特に顧客データを扱うシステム、決済に関わる機能、個人情報を含むフォーム。ここは人間の目が必要だ。
つまり、コードを書くコストは下がるが、「コードを判断するコスト」は下がらない。むしろ上がる。
—
で、中小企業は結局どうすればいいのか
抽象論はここまでにして、具体的なアクションを3つ挙げる。
1. Web制作の見積もりを疑え
今もらっている見積もり、あるいはこれから取る見積もりが「AI以前の相場」で計算されていないか確認する。100万円の見積もりが来たら、「AIツールを使った場合の工数はどうなりますか?」と聞く。これだけで3割〜5割下がることがある。下がらないなら、業者を変えることを検討していい。
2. 社内で「AI×業務改善」の実験を1つやれ
大げさなプロジェクトは不要。ChatGPTやClaudeに「うちの業務で毎月やっている○○を自動化するスクリプトを書いて」と頼んでみる。動かなくてもいい。「AIに聞けば何かしら出てくる」という体験を社内に1つ作る。これが最初の一歩だ。
3. 「コードを書ける人」より「業務を言語化できる人」を育てろ
AIがコードを書く時代に価値が上がるのは、「この業務のここが無駄で、こう変えたい」を明確に言語化できる人間だ。プログラミングスクールに通わせるより、業務フローの棚卸しをやったほうがいい。AIへの指示は、業務を理解している人間が出すのが一番精度が高い。
—
まとめ:コストが壊れた先にあるもの
WordPressのシェア喪失、GitHubのAIコード10倍、トーバルズの「新常態」宣言。これらはバラバラのニュースに見えて、1つの構造変化を指し示している。
「コードを書く」という行為の値段が壊れている。
これまで「技術がないから外注するしかない」「予算がないからデジタル化できない」と言っていた中小企業にとって、この変化は追い風だ。
100万円かかっていたものが10万円になる。10万円かかっていたものが自分でできるようになる。
ただし、安くなるのは「作る」部分だけだ。「何を作るか」「それは本当に必要か」「品質は大丈夫か」を判断する力は、むしろ今まで以上に求められる。
値段が壊れた先で勝つのは、「安く作れるようになったから、たくさん実験できる」と動ける企業だ。
大企業は稟議と承認で動きが遅い。中小企業は社長が「やってみよう」と言えば明日から動ける。この機動力こそが、コスト崩壊時代の最大の武器になる。
見積もりを疑い、まず1つ実験し、業務を言語化する。この3つから始めてほしい。
—
JA
EN