25万行のレガシーコードをAIが移植した。「あの人が辞めたら終わる」は、もう終わる。
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「あの人が辞めたら終わる」——その恐怖、まだ抱えてますか?
地方の中小企業で、こんな話を何度聞いたかわからない。
「うちのシステム、田中さんしか触れないんです」
「あのコード、誰も読めないけど動いてるから放置してます」
「田中さんが定年になったら……考えたくないですね」
レガシーコード。20年前に書かれたFortran、10年前のPerl、誰が書いたかわからないVBA。動いている。だから触れない。触れる人もいない。でも止まったら業務が止まる。
この「属人化の爆弾」を、AIが解除し始めている。しかも、想像以上のスピードで。
今回取り上げるのは3つの事例だ。25万行の気象シミュレーションコードのAI移植、バイオインフォマティクス領域でのRustへのAI翻訳、そしてCFD(計算流体力学)ワークフローの完全自動化。どれも「その道20年の職人」がいないと不可能だった仕事が、AIで回り始めたという話である。
25万行のFortranコードを、AIが数週間で移植した
気象シミュレーションの世界では、数十年前に書かれたFortranコードが現役で動いている。コード量は25万行。これを新しい環境に移植しようとすれば、従来なら熟練エンジニアのチームが半年以上かけて取り組む規模のプロジェクトだった。外注すれば数千万円。社内でやろうにも、Fortranを読めるエンジニアがそもそも採用できない。
ところが、最新の研究ではAIがこの移植を数週間で完了させた。AIがコードの構造を解析し、依存関係を把握し、新しい環境に適合するコードを生成する。人間がやるのはレビューと最終確認だけだ。
ここで重要なのはコスト感の変化だ。仮にこの移植を外注した場合、エンジニア単価を月100万円、5人チームで6ヶ月とすれば3,000万円。AIを使えば、ツール利用料とレビュー工数を合わせても数百万円規模に収まる可能性がある。桁が一つ変わる。
もちろん、25万行の気象コードを抱えている中小企業は多くない。だが構造は同じだ。数千行〜数万行のレガシーコードが業務の根幹を支えていて、触れる人が社内に1人しかいない。その1人が辞めたら、外注するしかない。外注先もレガシー言語の対応を嫌がる。見積もりが来ても高い。
AIによるコード移植は、この「詰み」の構造を根本から変える。
ソフトウェアサイズ80分の1、ビルド時間10分の1——Rustへの自動翻訳
バイオインフォマティクス(生物情報学)の分野で、もう一つ衝撃的な事例がある。古い言語で書かれたレガシーツールを、AIが静的解析を活用してRustに自動翻訳したのだ。
結果はこうだ。
- ソフトウェアサイズ:約80分の1に削減
- ビルド時間:約10分の1に短縮
数字だけ見ても異常だ。80分の1というのは、1.6GBのソフトウェアが20MBになるようなスケール感である。
なぜこんなことが起きるのか。古いコードには、過去の環境に依存した冗長な処理、使われていないライブラリ、歴史的経緯で残った回り道が大量に含まれている。人間がこれを整理しようとすると、「どこを消したら何が壊れるかわからない」恐怖との戦いになる。AIは静的解析でコード全体の依存関係を把握した上で、本当に必要なロジックだけをRustで再構築する。人間が怖くてできなかった「全部書き直し」を、AIは淡々とやってのける。
Rustに変換するメリットは速度だけではない。メモリ安全性が言語レベルで保証されるため、セキュリティリスクも大幅に下がる。古いC言語のコードに潜むバッファオーバーフローの脆弱性が、言語を変えるだけで構造的に消える。
中小企業にとっての示唆はこうだ。「古いコードを捨てて新しく作り直す」という選択肢が、AIによって現実的なコストで手に届くようになった。今まで「作り直したいけど予算がない」で止まっていた話が、動き出す。
CFDの専門家がいなくても、シミュレーションが回る
3つ目の事例は、CFD(計算流体力学)の自動化だ。Foam-Agentというフレームワークが登場し、自然言語のプロンプトだけでCFDワークフロー全体を自動化できるようになった。
CFDとは、流体の挙動をコンピュータでシミュレーションする技術だ。製造業では製品設計の最適化、空調設計、配管の流量解析など幅広く使われる。問題は、CFDを使いこなすには専門知識が必要で、学習コストが極めて高いことだ。OpenFOAMのようなオープンソースツールは無料で使えるが、設定ファイルの記述、メッシュ生成、境界条件の設定、ソルバーの選定——どれも専門家でなければ正しく設定できない。
Foam-Agentは、この一連のプロセスを自然言語で指示するだけで自動実行する。「直径50mmの円柱に風速10m/sの気流を当てたときの抗力を計算して」と入力すれば、AIが必要な設定ファイルを生成し、依存関係を整理し、シミュレーションを実行する。エラーが出れば自動で修正を試みる。
これが何を意味するか。
従来、CFDシミュレーションを外注すれば1件あたり50万〜200万円。社内でやろうとすれば、CFDエンジニアの年収は600万〜1,000万円。中小の製造業にとって、どちらも簡単には出せない金額だ。
それが、AIツールの利用料と社内の設計担当者の工数だけで回るようになる。月額数万円のAIツール費用で、年間数百万円分のシミュレーションが社内で完結する可能性がある。
地方の製造業にとって、これは「大企業と同じ武器が手に入る」ということだ。今まで資金力のある大企業だけが持てたシミュレーション能力を、中小企業が月数万円で持てる。この逆転構造は見逃せない。
本質は「コード移植」ではない。「属人化の解体」だ
ここまで3つの事例を見てきたが、共通するのは「専門家がいなくても回る仕組みが作れるようになった」ということだ。
- Fortranを読める職人がいなくても、コードを移植できる
- レガシーコードの全体構造を把握している人がいなくても、モダンな言語に書き直せる
- CFDの専門家がいなくても、シミュレーションを実行できる
これは「人が要らなくなる」という話ではない。「特定の1人に依存しなくて済む」という話だ。
中小企業の現場では、属人化は避けられないものとして受け入れられてきた。人が少ないから仕方ない。引き継ぎ資料を作る余裕もない。だから「あの人が辞めたら終わる」リスクを抱えたまま走り続ける。
AIは、この構造を壊す。特定の人の頭の中にしかなかった知識を、AIが代替可能な形に変換する。コードの移植も、シミュレーションの実行も、「やり方を知っている人」から「やり方を指示できるAI」に移行する。
で、結局どうすればいいのか
「うちにはレガシーコードなんてない」と思った方。本当にそうだろうか。
Excelのマクロ、Accessのデータベース、誰かが昔作ったPythonスクリプト、WordPressのカスタムプラグイン。広い意味でのレガシーコードは、ほぼすべての中小企業に存在する。
まずやるべきことは3つ。
1. 棚卸しをする。 社内で「特定の人しか触れないコード・システム」を洗い出す。リストにするだけでいい。
2. リスクを数字にする。 その人が辞めた場合、外注で復旧するといくらかかるか。見積もりを取るだけでも、リスクの大きさが可視化される。
3. 小さく試す。 いきなり25万行の移植をする必要はない。まず数百行のスクリプトをClaude やGPT-4に読ませて、別の言語に変換させてみる。動くかどうか試す。それだけで「AIにどこまで任せられるか」の肌感覚がつかめる。
大事なのは、完璧を目指さないことだ。AIの出力は100%正確ではない。だが、ゼロから人間がやるよりも圧倒的に速く、安い。8割の精度で出てきたものを人間が2割直す。そのほうが、職人エンジニアを半年探し続けるよりもはるかに現実的だ。
「あの人が辞めたら終わる」を放置するリスクと、AIで仕組み化するコスト。天秤にかけたとき、もう答えは出ているのではないか。
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JA
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