部活の地域移行×スマート農業体験×バス運転手合同説明会——「担い手」の配管工事が、同時に始まっている
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三つの現場で、同じ図面が引かれている
東広島市の中学校で、部活動の指導者が「学校の先生」から「地域の人」に替わろうとしている。岩国市の農地で、高校生がドローンのコントローラーを握っている。広島市内のホールでは、ふだん競合関係にあるバス8社の採用担当者が、同じテーブルに並んで求職者を待っている。
場所も分野もばらばらに見える三つの出来事を並べたとき、浮かび上がるのは一本の共通した問いだ——「人が足りない」のではなく、「人が届く配管が詰まっている」のではないか。どの現場も、個人の頑張りに頼る回路をいったん外し、仕組みそのものを引き直す工事に手をつけ始めている。
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部活動の地域移行——「先生がやるもの」を解体する試行
東広島市教育委員会が2024年8月から試行を始めた部活動の地域移行は、全国的に進む制度改革の地方版だ。スポーツ庁が2023年度から段階的に休日の部活動を地域へ移す方針を示して以来、各自治体が具体策を模索してきた。東広島市が注目されるのは、地域のスポーツクラブや企業を「受け皿」として早期に巻き込んだ点にある。
この試行の背景には、教員の長時間労働がある。文部科学省の2022年度調査では、中学校教員の約36%が月80時間以上の時間外勤務——いわゆる「過労死ライン」——を超えていた。部活動の指導は正規の業務外とされながら、事実上は教員が担い続けてきた。つまりここには、「先生がやるもの」という暗黙の配管が通っていた。
東広島市の試行では、地域のスポーツ指導者や企業の社員が外部コーチとして参加する。市内の中学校数校を対象に、まず休日の活動から切り替えを進める。指導者への謝金は1回あたり数千円程度とされ、財源の持続性が今後の課題になる。それでも、「教員か、廃部か」の二択しかなかった現場に、第三の管を通したことの意味は小さくない。
生徒にとっても変化がある。学校単位ではなく地域単位で活動することで、異なる学校の生徒が同じチームで練習する場面が生まれる。これは少子化で単独チームを組めなくなった学校にとって、「部活を続けられる」という最も切実な問題への回答でもある。
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スマート農業体験——ドローンが「きつい・汚い・格好悪い」を書き換える
岩国市で実施された高校生向けスマート農業体験プログラムは、農業の担い手不足に対するもう一つの配管工事だ。農林水産省の統計によれば、基幹的農業従事者の平均年齢は68.4歳(2023年)。10年前と比べて約5歳上がった。この数字が意味するのは、「あと10年で現場に立てる人が急減する」という時限的な構造問題である。
体験プログラムでは、ドローンによる農薬散布、圃場センサーを使った土壌水分・気温のリアルタイム管理、収穫量予測のデータ分析といった技術を高校生が実際に操作した。従来の農業体験が「田植え・稲刈り」で完結しがちだったのに対し、このプログラムはテクノロジーを入口にしている点が異なる。
参加した高校生の一人は、「農業ってスマホで管理できるんだ」と話したという。この一言には、農業に対する旧来のイメージ——体力勝負、経験と勘、早朝から日没まで——が書き換わる瞬間が詰まっている。もちろん、スマート農業の導入にはドローン1台で50万〜200万円、センサーシステムの構築に数十万円単位の初期投資がかかる。個人経営の農家が単独で負担するには重い。だからこそ、自治体やJAが機材を共有する仕組み、あるいは法人化による規模拡大といった「配管」が必要になる。
体験で興味を持った高校生が、すぐに就農するわけではない。だが、「選択肢として農業が視野に入る」状態をつくること自体が、配管の口径を広げる作業だ。人が流れる可能性のある管を、まず物理的に存在させる。その先に水が通るかどうかは、受け入れ側の環境整備にかかっている。
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バス運転手合同説明会——競合8社が「業界ごと売る」という転換
広島市内を走るバス8社が合同で運転手募集の説明会を開催した。この「合同」という形式そのものが、従来の採用慣行からの逸脱だ。バス会社同士は路線が重なる区間では競合関係にある。それでも一社単独では求職者を集められないほど、運転手不足は深刻化している。
国土交通省の資料によれば、バス運転手の有効求人倍率は全産業平均の約2倍にあたる水準で推移している。2024年問題——トラック運転手の時間外労働上限規制——の影響で物流業界との人材争奪も激しい。月給25万〜30万円という水準は、同じ大型免許を必要とするトラック運転手の給与帯と比較されることが多く、バス業界にとっては不利な条件になりやすい。
合同説明会の設計が興味深いのは、「うちの会社に来てください」ではなく「この業界に来てください」というメッセージに切り替えた点だ。各社が個別に労働条件を提示しつつも、未経験者向けの大型二種免許取得支援制度を業界共通のアピールポイントとして打ち出した。免許取得費用は通常30万〜40万円程度かかるが、複数社が会社負担で取得を支援するプログラムを用意している。
これは、パイの奪い合いではなくパイそのものを広げる戦略だ。一社が採用に成功しても、隣の路線が減便になれば地域の交通網全体が痩せる。競合でありながら共存する——その矛盾を引き受けたうえで、「まず業界に人を呼び込む管を太くしよう」という判断がなされた。
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三つの現場に共通する構造——「届け先」を変える工事
三つの取り組みを並べると、共通する設計思想が見えてくる。
第一に、「誰がやるか」の前提を問い直している。 部活動は教員、農業は農家の跡取り、バス運転は経験者——それぞれの分野で暗黙の「届け先」が固定されていた。その管が細くなったとき、管の先を付け替える工事に着手した。地域の指導者へ、テクノロジーに関心のある若者へ、異業種からの転職者へ。届け先を変えれば、届く人が変わる。
第二に、個別最適ではなく「面」で動いている。 一校の部活動ではなく市全体の制度設計。一農家の後継ぎではなく地域の農業体験プログラム。一社の求人ではなく8社合同の業界説明会。個の努力を束ねて面にすることで、初めて「仕組み」と呼べるものになる。
第三に、いずれも「完成」していない。 部活動の地域移行は試行段階であり、指導者の報酬体系も確立していない。スマート農業体験は入口を見せただけで、就農までの道筋は未整備だ。合同説明会も一回の開催で運転手不足が解消されるわけではない。どれも「配管を通した」段階であって、「水が安定して流れている」段階ではない。
だからこそ、この三つが同時期に動いていることに意味がある。一つの分野で試された仕組みの設計図は、別の分野に転用できる。合同説明会の発想は、農業の担い手募集にも応用できるかもしれない。部活動の外部指導者制度は、地域の企業が人材育成の場として活用する回路になりうる。配管の設計図は、分野を超えて共有されるべきものだ。
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これから見るべきもの
今後の焦点は、「管を通した」あとの運用コストと持続性にある。外部指導者への謝金は誰が負担し続けるのか。スマート農業の機材共有は、どの単位で採算が合うのか。合同説明会は年に何回開けば業界全体の採用数を底上げできるのか。
仕組みは、つくった瞬間が最も美しい。だが本当に価値があるのは、3年後、5年後にその管を水が流れ続けているかどうかだ。設計図を引いた人の名前は忘れられても、蛇口をひねれば水が出る——その状態をつくることが、地域の「担い手確保」という言葉の本当の意味だろう。
三つの現場で、同じ季節に、同じ種類の工事が始まっている。配管はまだむき出しで、接続部から少し水が漏れている。それでも、管が通ったという事実だけは残る。
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JA
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