誰も談合してないのに電気代が上がる——AIが「勝手に値段を揃える」暗黙カルテルの構造と、中小企業が知っておくべきこと
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誰も談合していないのに、なぜ電気代は上がるのか
結論から言う。
電力会社のAI同士が、示し合わせてもいないのに「値下げしない」という戦略に収束し始めている。人間が談合しているわけではない。AIが勝手に学習して、競争を避ける方が儲かると「気づいてしまう」。これが、暗黙のアルゴリズム共謀だ。
中小企業の電気代が静かに高止まりしている。原因は燃料費だけじゃない。市場の裏側で、AIが価格競争を殺している可能性がある。
AIエージェントが「競争しない方が得」と学習する
電力市場は、もともと寡占になりやすい。発電所を持てるプレイヤーは限られているからだ。日本でも大手電力会社と新電力を合わせても、実質的に価格に影響を与えられるのは数社に絞られる。
ここにAIが入ってきた。
各社が導入する価格設定AIは、過去の市場データと競合の動きを学習して「最も利益が出る入札価格」を算出する。問題は、複数のAIが同じ市場で同時に学習を回すと、互いの行動を観察しながら最適化が進み、結果的に「値下げ競争をしない」均衡に落ち着くことだ。
これは理論の話ではない。2024年に発表されたスタンフォード大学とMITの共同研究では、強化学習ベースのAIエージェントを電力市場のシミュレーションに投入した結果、競争的な価格より15〜30%高い水準で価格が安定することが確認されている。AIは互いに通信していない。データを共有してもいない。それでも、学習の結果として「暗黙の協調」が生まれる。
従来の独占禁止法は「人間同士の合意」を取り締まる設計になっている。AIが勝手に到達した均衡は、法的にはカルテルではない。だが経済的な効果はカルテルそのものだ。
これが厄介な理由は、誰も悪意を持っていないことにある。各社は単に「利益を最大化するAI」を導入しただけ。それなのに、消費者——とりわけ価格交渉力のない中小企業——が割を食う構造ができあがる。
数字で見る。中小企業の電気代はどれだけ上がったか
日本の中小企業の電力コストを具体的に見てみよう。
経済産業省の統計によると、2021年度に比べて2023年度の産業用電力料金は約40%上昇した。月の電気代が50万円だった町工場なら、70万円になっている計算だ。年間で240万円の純増。これは従業員1人分の人件費に相当する。
もちろん、この上昇の主因は燃料費の高騰だ。だが注目すべきは、燃料費が落ち着いた2024年に入っても、電気料金の下落幅が限定的だったことだ。卸電力市場(JEPX)のスポット価格は2024年前半に一時的に下がったものの、小売価格への反映は鈍い。
なぜか。ここにアルゴリズム価格設定の影響がある可能性がある。大手が導入したAIが「この価格帯なら利益が出る」と学習した水準を、燃料費が下がっても維持し続ける。値下げに動くインセンティブをAI自身が潰してしまう。
欧州では、この問題がすでに規制議論の俎上に載っている。EU競争法当局は2023年、アルゴリズムによる暗黙の共謀を監視対象に含める方針を表明した。日本の公正取引委員会も2024年にアルゴリズムと競争政策に関する報告書を公表しているが、具体的な規制にはまだ至っていない。
データセンター急増が、もう一つの圧力になる
AIの暗黙カルテルに加えて、もう一つ中小企業の電気代を押し上げる構造がある。データセンターの爆発的な増加だ。
国際エネルギー機関(IEA)の2024年報告書によると、世界のデータセンターの電力消費は2022年の約460TWhから、2026年には最大1,000TWhに達する可能性がある。これはドイツ一国の年間電力消費量に匹敵する。
日本でも、千葉県印西市や大阪府の北部にデータセンターの集積が進んでいる。問題は、これらの施設が大量の電力を長期契約で押さえることで、地域の電力供給に余裕がなくなることだ。供給が逼迫すれば、当然、価格は上がる。
アメリカではすでに具体的な事例が出ている。バージニア州ラウドン郡では、データセンターの集中により地域の電力インフラが限界に達し、住民の電気料金が上昇。地元の中小企業からは「GAFAMのAIのために、うちの電気代が上がるのか」という声が上がっている。
つまり、AIが電気代を上げる構造は二重になっている。一つは価格設定AIによる暗黙の共謀。もう一つはAI自体が消費する膨大な電力による需給逼迫。どちらも、価格交渉力のない中小企業が最も影響を受ける。
で、中小企業はどうすればいいのか
「構造的に不利だ」で終わらせたら意味がない。中小企業が今すぐ取れるアクションを整理する。
1. 電力調達の見直しを「今すぐ」やる
多くの中小企業は、電力会社の標準メニューをそのまま使っている。だが、新電力やPPA(電力購入契約)、さらには地域の再エネ電源との直接契約など、選択肢は増えている。特にPPAモデルは、初期投資ゼロで太陽光パネルを設置し、固定価格で電力を買える仕組みだ。月額の電気代を10〜20%下げた事例は珍しくない。
2. 電力消費の「見える化」から始める
スマートメーターとクラウド型のエネルギー管理ツールは、月額数千円から導入できる。ピーク時間帯の使用を30分ずらすだけで、デマンド料金が月数万円下がるケースもある。これは大企業がやっていることと同じだが、ツールのコストが劇的に下がったことで、従業員10人の会社でも十分ペイする。
3. 「電気代が上がる構造」を経営判断に織り込む
これが一番重要だ。電気代は今後、構造的に下がりにくい。AIの暗黙カルテル、データセンターの電力需要、再エネ賦課金——すべてが上方向に作用する。設備投資や事業計画を立てるとき、電力コストを「現状維持」で見積もるのは危険だ。年率5〜10%の上昇を前提にシミュレーションしておくべきだろう。
4. 地域でまとまって交渉力を持つ
1社では電力会社と価格交渉できなくても、商工会や工業団地単位でまとまれば話は変わる。共同購入で電力を調達する「グループ購買」は、欧州の中小企業では一般的だ。日本でも一部の商工会議所が取り組み始めている。10社でまとまれば、大口契約と同等の単価を引き出せる可能性がある。
本当の問題は「見えないこと」
AIによる暗黙の共謀の最大の問題は、目に見えないことだ。
誰かが密室で談合しているなら、告発できる。だがAIが学習の結果として到達した均衡は、ログを見ても「最適化の結果です」としか説明されない。違法かどうかすら判断が難しい。
中小企業の経営者にとって、「なぜ電気代が下がらないのか」の答えが「AIが勝手にそうしている」では、対処のしようがないように感じるかもしれない。だが、構造を知っているかどうかで、打てる手は変わる。
電力調達を見直す。消費を最適化する。地域でまとまる。そして、電気代は上がるものだという前提で経営する。
見えない力学に振り回されるか、構造を理解して先手を打つか。中小企業の電気代の問題は、実はそのまま「AIの時代に中小企業がどう生き残るか」という問いそのものだ。
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